2016年08月27日

ブックレビュー 「凍った地球-スノーボールアースと生命進化の物語」 田近英一著

凍った地球
スノーボールアース理論,すなわち地質学的な証拠から過去に地球は赤道までぜんぶ凍り付いたことがあるらしいという学説については,かなり以前に「日経サイエンス」(いや,当時はただの「サイエンス」だったかも?)で読んだ記憶があって,この本の存在を知ったときには「ああ,あの学説もどうやら市民権を得たというか,プレートテクトニクスや隕石による恐竜絶滅みたいに「荒唐無稽だがホントらしい」いうことになったのかな,と思った。

買うことにしたのは副題にある「生命進化の物語」って部分に眼がいったから。あれ,だって地球が凍り付いたのは20億年前とかの,まだ地球に生命が生まれてたか生まれてないかわかんない頃の話ではなかったっけ,と。

その方面に不案内なヒトのために(オレだって観てたわけぢゃないが)ざっと地球の歴史をおさらいすると,この惑星はだいたい46億年くらい前に出来上がった。そっから約6億年,これを冥王代というんだが,の間のことは地質学的な記録がほとんど残ってなくてわからない。オレは勝手に「きっとドロドロで何も固まらなかったんだな」とイメージしてるんだけどね。

40億年前になってようやく…神話風に言えば重いものは下に固まり軽いものは上に浮かんで,一応研究対象となる標本みたいなものが残るようになる。これがざっと15億年で「太古代」と呼ばれてる。それに続くのが「原生代」の約20億年。地球最初の生命はこの期間に誕生し,なにがあったのか知らないが,約5億4200万年前になって突然,異常といっていい進化・多様化を遂げた。

これを一般に「カンブリア爆発」といい,こっから現在までを「顕生代」と…地質学的にはいうんだけど,生物史を考えるとそれぢゃあんまり大雑把すぎるだろってんで,この「顕生代」の中身を「古生代」「中生代」「新生代」と分け,それでもまだ足りなくなって「古生代」を「カンブリア紀」「オルドビス紀」「シルル紀」「デボン紀」「石炭紀」「ペルム紀」に,「中生代」を「三畳紀」「ジュラ紀」「白亜紀」に,「新生代」を「古第三紀」「第三紀」「第四紀」に細分化してる。

でだ。

この本によれば,上の原生代前期の約22億年前と,後期にあたる約7億年前の二度,地球は全球凍結,すなわちスノーボール状態となり,そしてまたそのことが生物の進化に多大な影響を与えた,どころかもしこの全球凍結時期がなかったらワレワレは今こんな風に人類ヅラしてこんな本を読んだり酒飲んで酔っぱらったりうるさい選挙カーに悩まされたりしてなかったかも知れないのである(最後のはその方がよかったか)。

なんで地球全部が凍り付くなんて現象が起こりえるのか,とか,どんな証拠が確かにそれがあったことを示しているのかとかいうコマカイことについては実際に読んでいただくしかないが,そこから算出されるハビタブルゾーン(地球のような惑星環境が実現するであろう母星からの距離)の狭さ(0.95〜1.37天文単位…1天文単位は太陽から地球までの距離)にはココで戦慄していただこう。金星(0.72)は太陽に近すぎ,火星(1.50)は遠すぎた。

結論から言えば,ホンマに我々は生きてるだけで宝くじに当たったみたいな存在なのである。だものもう一度は当たらないよ,普通。

「凍った地球-スノーボールアースと生命進化の物語」をAmazonで探す。


posted by hiro fujimoto at 08:42| Comment(0) |

2016年08月23日

ブックレビュー 「代替医療のトリック」 サイモン・シン&エツァート・エルンスト

代替医療のトリック
題名を見て「代替医療って何だ?」と思いました? 冒頭にその定義がある。

「主流派の医師の大半が受け入れていない治療法」

つまりは現代医学の基礎になっている科学的知見に合致しない理論やメカニズムを用いて行われる治療法ってこと。こういうと「ああ,先年話題になったホメオパシーみたいなやつね」と合点しちゃうヒトもいると思うが,著者たちによればこれにはホメオパシーだけでなく,鍼(鍼灸,指圧を含む),カイロプラクティック,ハーブ療法なども含まれるのだ。え,鍼もなの? 鍼もなのである。

何を隠そうワタシも鍼&カイロプラクティックの経験がある。20代後半,当時勤務先があった北新宿の交差点でわき見運転のクルマにはねられて腰を痛めた。何日かの通院後,医者は治ってるというのだが痛みが消えず,通勤途中で見かけたそういうクリニックの戸を叩いた。

2月くらい通ったかなぁ,そこで受けた説明を思い出すと,何個かめの胸ついの位置がちょっとずれてるんだが,すぐには動かせないのでまず鍼で回りを温めます。温まったところでカイロプラクティックのテクニックで骨を動かせば痛みは消えるはず,と。で,安くはなかったが通って(バブル真っ盛りのコロ,オレも今のようにビンボウではなかった),2月後になんか背中を押したり曲げたりして「ポコ」っと音がして,さぁこれで治りました,と。

え,治ったのかって?

そこが微妙なんだよね。実際のところ通い始めて1月半くらいで状況はかなり改善していたのである。でも治療行程的にはまだ「鍼で温めてる」段階なわけで,もういいですとも言いにくい。

最後,確かに「ポコ」って音は聴いたけど,オレはこれが関節液に生じた気泡が弾けて鳴るものだってコトを知ってたのでああそうですかという感じ。あれにはホントにちょっとした爽快感があるし,背骨(正確にどっからの音だかはわからんのだが)からあれを出すのは難しいんだけど,少なくとも「胸ついが動いた」音ぢゃねぇんだよね。

つまり結論として,ワタシは「鍼とカイロプラクティック」に通ったコトはあるけれど,それのおかげで良くなったのかどうかについて確信は持てない,のである。だってそもそも「それをやらなかった」場合って対照実験をしてないわけだから(いや,できないんだけどさ)。

で,実のところこの本の価値はそこにある。代替医療に対する我々シロウト(患者と言ってもいい)の見解というのはつまるところ,試したら効いた,効かなかった,効いたような気がする,騙された,という個人的な体験(しかもそれは客観的に検証されたものではなくあくまで印象だったりする)に基づくものに過ぎないのだ。

同じ病気を2度患って,今回はこっちの治療法,今回はあっち,みたいなことは普通やらないし,やったとしても実験としては厳密さが足りない。で,早い話この本はそれを代わりにやってくれたのだ。ちゃんと実行された臨床試験だけを集め,それらをメタアナライズした結果を報告してくれている。

その結果…ま,それは読んでください。信じるにしろ信じないにしろ読んで損はしないと思うよ。

「代替医療のトリック」をAmazonで検索。


posted by hiro fujimoto at 09:09| Comment(0) |

2016年08月17日

ブックレビュー 「江戸の罪と罰」 平松義郎

江戸の罪と罰
「江戸の罪と罰」であるが,題名から想像されるような,貧乏だが学問に励む下級武士の三男坊がオレは天才であるにも拘わらずこういう境遇なのに学もなければ色気もないただ強欲なだけの金貸しの後家が裕福だなんてあんな女は殺していいんだと思いこみ押し込み強盗をハタラクものの,信心深い可憐な町娘に惚れて改心する,しかしそんな彼らをよそに歴史は明治に向かって大きく動き始めていた…というような話ではまったくなく,日本法制史を専門とする大学の先生による江戸時代の刑法・刑罰についての解説書である。

白状すると第1部「近世法」の辺りに関しては、一応読むには読みましたけどほとんど頭に残らない。朧げながら理解できたのは幕府法と藩法という存在。アメリカの連邦法と州法に似てて,ある事件の被害者と加害者が両方ともその大名の領民であれば藩法で裁けるが,片方が他所者だと幕府に伺いを立てる,すなわち幕府法の適用対象になるってこと…。

なんだけど,ほんぢゃその幕府法というのが天下にきちんと公開されてたかというとこれが「秘中の秘」で幕府の役人の中でもその担当の者のみが知ってた,という旧ソ連状態(「お前は法律を犯したから逮捕する」「なんの法律を?」「それは秘密だ」というあれね)。ところがその実,どの藩でもその写しを入手秘匿していたというわけわかめ。こう書き出してみると結構頭に入ってるやん(笑)。

でも読みどころは第2部半ばの「人足寄場の成立と変遷」というトコロ。時は寛政年間,話の主役は老中・松平定信とご存知鬼平こと火付け盗賊改役・長谷川平蔵。この時点まで江戸における刑罰というのは基本的に「死刑」か「追放刑」で,現代一般的な「自由刑」…つまり懲役など自由を奪う刑ね,はなかった。よく時代劇で出てくる牢屋は未決囚がいれられるところで,現代で言えば拘置所であって刑務所ぢゃないのである。

でも永年それでやってきた結果,江戸で軽い罪を犯したヤツは「江戸トコロ払い」とかで江戸から追放されるが他所に行って生きねばならない。同じように他所で追放刑食らったヤツが江戸に来てたむろする。当然ながら彼らのほとんどは正業に就けず元の稼業を再開するわけで治安が悪くなってしようがない。

そこで長谷川平蔵が,こういう「無罪の無宿」(江戸では罪を犯してないから無罪だが,どっかから追放されてきてるので無宿である)をひっとらえてヒトツところに集め,人足として働かせればどうでしょう,と定信に建言。これを定信が許して日本初の刑務所……ぢゃないんだけどね,そもそも入ってるヒトは無罪だし,が出来たという話。鬼平がこの仕事に傾けた情熱を知って,今後「鬼平犯科帳」を観る目が変わりそうである。

「江戸の罪と罰」をAmazonで探す。


posted by hiro fujimoto at 08:34| Comment(0) |