2016年09月09日

ブックレビュー 「泡沫桀人列伝 知られざる超前衛」 秋山祐徳太子著

泡沫桀人列伝 知られざる超前衛
1995年だからもう21年も前になる。目黒区立美術館で「戦後文化の軌跡1945-1995」という展覧会が開かれ,当時一緒に仕事をしていたプロデューサの故サトーマサヒロ(第二次UWFで舞台監督をしてた男)と見に行った。

そこに「秋山祐徳太子の都知事選ポスター」というのが展示されておってね,おお,と懐かしく切なき当時を思い出し,そう云えばあのヒトは今頃どうしているのだろう,としばし二人で昭和回顧に耽ったのであった(横尾忠則デザインの,「少年マガジンの表紙絵葉書」も買っちまった)。

その秋山祐徳太子がオレの知らない間に(って別にオレに知らせる義理はないんだが)「週刊読書人」にコラムを連載しており,これはそれを一冊にまとめて出版したもの。簡単に言えば,秋山氏がいままでに出会った,彼云うところの「泡沫な」人たち50名の恐れ入る人生を紹介する,という企画なのだがこれがおかしい。

ほんまにこんなヒトがいるのかいな,という奇人変人のオンパレード,多くは著者と同じ美術家,芸術家だが,ひょっこり鰻屋の親父さんとか西原理恵子のマンガで有名人になってしまった白夜書房の「パチンコ必勝ガイド」末井編集長とかが混じっている。

しかしなんと云っても圧巻は75年の東京都知事選挙を共に闘った3名の候補者達である。あ,知らないヒトのために予備知識を補足すると,75年のこの選挙は石原慎太郎が現職・美濃部亮吉に挑んで返り打ちにあった,現都知事の「青春の蹉跌」,「二十歳の原点」,「復讐するは我にあり」の選挙なのね。

月満ち星流れた後に都知事になったイシハラ氏の基本方針が「フクシは削れ,ギャンブルを復活しよう」だったのは理念でも何でもなく,単にあの時ミノベが「ギャンブルを廃止しフクシを頑張ります」と言ってたせいだ(当時ワタシの叔母は都営のギャンブルを廃止するってんでミノベを支持してた,憶えてます)。そういう意味では実に分かりやすいヒトなのである。

閑話休題(どっちが閑話だ?),もちろんイシハラだミノベだという当選したり当選するかもしれなかったり数十年後にリベンジを果たしたりするようなヒトは,泡沫桀人列伝にその名を挙げられる資格がない。ここに紹介されているのは窪田志一,鈴木東四郎,吉田浩の各氏である。それぞれあの秋山祐徳太子が「これらの方々をさしおいてワタシは泡沫を名乗れない」という見事な泡沫振りであり,特にチンダレ窪田氏の活躍は笑いを通り越して感動の涙を招来せずにおかぬほど(ちょっとだけ誇張あり)。

行政執行者なんぞになりたいわけではなく,最初から「泡沫候補者」に憧れて都知事選に2回出馬したという泡沫のソムリエ,前衛芸術家秋山祐徳太子入魂の一冊。巻末には赤瀬川原平,山下裕二との「泡沫鼎談」も収録。

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2016年09月03日

ブックレビュー 「最後の証人」 柚月裕子著

最後の証人
7年前,三森市の郊外で内科クリニックを開いている医師・高瀬光治は一人息子の卓を交通事故で失った。当時小学5年生,自転車で塾に行った帰り道のこと。卓の後ろを走っていた親友の直樹は「信号は青だったし自動車を運転していた男からは酒の匂いがした」と証言したが警察はなぜかこれに取り合わず,卓の一方的な過失として処理された。

当然ながら納得のいかない高瀬は警察に怒鳴り込み,そこで事故を起こした男・島津邦明が県の公安委員長を勤め,地元ロータリークラブの副幹事,NPO法人のゴルフクラブの顧問,他にもさまざまな肩書きを持つ島津建設代表取締役であったことを知る。しかもこの男は卓に線香の一本を上げに来ることもなく,事故処理はすべて保険屋まかせだった。

それでも諦めきれず共にビラを作って目撃者を探す高瀬夫婦。そんな彼らを次なる不幸が襲う。妻の美津子に治療困難な胸腺癌が発見されたのだ。自暴自棄になって呑みに出た高瀬は,偶然入ったバーで息子の仇・島津を見かける。ホステスを周囲に侍らせて上機嫌の彼はクルマで迎えに来た息子に向かい卓の事故について軽口を叩いた。

帰宅して怒りをぶちまけた高瀬に美津子はひとつの提案をする。自分が島津を誘惑して近づき卓の仇を取る,というのだ。最初は反対した高瀬だったが,迫り来る死を意識した美津子の決意は揺るがない。美津子は島津の主宰する陶芸教室に通い,生徒達の間でも噂になるほど島津に媚を売る,と同時に家ではわざと近所に聞こえるように夫婦喧嘩を演じ…そして事件が。

シティホテルのスウィート,不倫関係がこじれての殺人事件。凶器はルームサービスのディナー・ナイフ。死因は心臓を刺されたことによる失血死。状況証拠,物的証拠のすべてが有罪を示唆している。弁護を依頼されたの元検事,所謂ヤメ検弁護士の佐方貞人は無実を主張する被告人を救うことができるのか。そして高瀬夫妻の復讐の行方は?

ネタバレを避けて書ける内容はこんなもんかな。悪役・島津の人物像がかなり「二時間サスペンス」的にステレオタイプだとか,弁護士・佐方の助手って調査能力ありすぎだろうとか,話のリアリティに関しては瑕疵もあるが,このトリックというかアイディア一発で文庫本1冊読者を引きずりまわす剛腕は見事。いや面白うございました。

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posted by hiro fujimoto at 13:03| Comment(0) |

2016年08月30日

ブックレビュー 「自然界の秘められたデザイン 雪の結晶はなぜ六角形なのか?」 イアン・スチュワート著

自然界の秘められたデザイン
雪の結晶が六角形なのはかなりよく知られている事実である。子供の頃,学習雑誌の口絵かなんかで写真を観てその美しさと不思議さに魅せられた憶えのあるヒトも多かろう。でもオレを含む多くのヒトは日々の暮らしのうちにあのときの驚きや感動を置き去りにし,「雪の結晶はなぜ六角形なのか?」という質問に答えられないままオトナになってしまった。

いや,別にオレ,そう言って自分を卑下してるつもりはないんだ。「水に優しい言葉をかけると綺麗な結晶ができるんだよ」みたいなことを信じるほどバカなオトナになったわけぢゃあるまいし。ただそう言えば,なんで空は青い(青く見える)のか,とか,タイムマシンは可能か,みたいに,同じくらいの時期に持ち,今ではちゃんと答えを知ってる他の疑問に比べ,こいつに対する扱いは冷たかったな(雪だけに?)と。

そこに英国の数学者にして著名なサイエンスライターでもあるイアン・スチュアート博士がそいつをテーマに書いた本がようやく訳出されましたよ,という報せ…は来ないが偶然 Web で知ったのである。ページを開くとそこにあるのは冷たいガラス面などの上でシダの葉のように成長した氷の結晶。うんうん,子供のころはこれも好きでした。今知ってる言葉で言えばこれ,フラクタルだったんだね。続いてオウムガイの殻が描く対数らせん,そして本書のメインテーマである雪の結晶…これですよこのウツクシさ!

本文は17世紀の天文学者ケプラー(そう,あのケプラーでんがな)がこの結晶のカタチについて書いた「六角形の雪片について」という本を出発点に,自然界に生じる各種のパターン,虹の配色,波紋,トラやヒョウやシマウマの模様が生じるメカニズムを解き明かし,対称性,対称性の破れ,カオス,フラクタルへと話を拡げて最後は「宇宙のかたち」に到る。

特に対称性とその破れに関する説明はアレックス・ビレンケンの「多世界宇宙の探検〜ほかの宇宙を探し求めて」に出てきた宇宙の誕生を思わせて示唆的。つまり,完全な対称性は不安定だから必ず破れる,という理解は「完全な『無』は不安定なので『有(宇宙)』が生まれた」という理解に繋がりませんか?

子供には…いや,オトナにとっても理解するには結構ホネの折れる内容ではあるが,それでも,そう,中学,高校生くらいの時にこんな本に出会っていたら人生大きく変わっていたかもな,と思う。いま,そういうことに興味を持ってるそのくらいの少年少女に強く激しくお勧めしたい本であります。きっと理科と数学が好きになるよ。

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posted by hiro fujimoto at 08:23| Comment(0) |