2017年02月05日

ブックレビュー 「シャドウ・ストーカー」 ジェフリー・ディーヴァー著

シャドウ・ストーカー
ジェフリー・ディーヴァー作,四肢不随の天才鑑識官リンカーン・ライムのシリーズからスピンオフした,CBI(カリフォルニア州捜査局)に所属するキネシクスの天才・キャサリン・ダンスが主人公のシリーズ第3作。

趣味でメキシコを始めとするラテン音楽を紹介するサイトを運営しているダンスは,休暇を利用してカリフォルニア州中部,フレズノ近辺に音源収録に出かける。

目的はもうひとつ,友人でもあるフレズノ出身のカントリー歌手,ケイリー・タウンに逢うこと。ケイリーは毎年この時期にゆかりのある地元のホールでコンサートを開くことにしているのだった。

が,そのケイリーはダンスとの再会を喜ぶどころか傍目にもわかるほど動揺していた。彼女の熱心なファン転じてストーカーになってしまったワシントン州の青年,メールアドレスを変更してもなんらかの方法で新しいアドレスをつきとめ数十通,数百通におよぶメールを送り付けてくる男エドウィンがこの街に来ているというのだ。

休暇中ではあるものの伝手をたどってトラブル対策に協力を約束したキャサリン。しかし翌朝予想もしない事態が発生する。ケイリーのロードクルーでデビュー以前からの親しい友人でもあるボビー・プレスコットがコンサート会場の奈落で,照明の下敷きになって発見されたのだ。

ケイリー周辺の話から当然のごとくエドウィンを疑う地元警察。しかしこのエドウィンという青年,ただの頭のおかしいdファンではなかった。その頭の良さにいち早く気づいたキャサリンは,捜査の指揮を執る刑事課長マディガンに警告を発するが,それをマスコミの耳目を集める事件ゆえの管轄外への介入と受け取った彼はエドウィンの仕掛けた罠に落ちてしまう。

相変わらずのディーヴァー節というか,中盤から終盤にかけてこれでもかこれでもかとどんでん返しが繰り返される展開はジェットコースター的に楽しい。その昔,作家の道を選ぶかミュージシャンになるか迷った,というディーヴァーオリジナルの(作中ではもちろんケイリー・タウン作となっている)歌詞が事件のカギとなる趣向も吉。

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2017年01月17日

ブックレビュー 「フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人」 速水健朗著

フード左翼とフード右翼
例えばである。新聞の左翼と右翼を考えてみよう。赤旗とかの政党機関誌は除外するとして,朝日が左翼,産経が右翼という分類でまぁ異論はあるまい。雑誌なんかも新聞と同じ基準で色分けできる。作家なら大江健三郎は左翼で石原慎太郎が右翼,おっとイシハラはむかし三島由紀夫に「天皇なんか尊敬してねぇ」とか言ってたっけが。

とにかくこの色分けをいろんなものに当てはめていく。映画ならパラマウントは左翼でフォックスは右翼,音楽ならジャズが左翼で演歌が右翼,OSならLinuxが左翼でWindowsが右翼,酒で言えば焼酎が左翼でブランデーが右翼てな具合に。いや,別に根拠もへちまもなく書き連ねてるのでそこらで「なんでブランデーが!」とかメンタマとがらせないように。

オレはこんなのとことん印象論というか,落語の「やかん」にでてくる「こち」の謂れみたいなもんみたいなもん(「あの『こち』って魚はなんで『こち』なんですかね?」「こっちに来るから『こち』ぢゃねぇか」「それぢゃ向こうに泳いでったらどうすんです?」「そういうときはおまえが向こうに回ればいいんだよ」ってやつね)ぢゃないかと思うんだが,本書の著者はそうは考えなかったのである。

とりあえず世の中の「食」というものすべてを思いつくまま,地域主義→グローバリズムを横軸に,ジャンクフード→健康指向というのを縦軸にとったマトリックスの上に配置する。例えばマクドナルドのハンバーガーはグローバリズムでジャンクフードという位置に,スターバックスはグローバリズムだけど健康指向の真ん中あたりに,地域主義で健康指向という象限にはベジタリアンやスローフード運動を配置してくという具合。

手法自体はピエール・ブルデューがあの「ディスタンクシオン」でやったのに似ている。が,その配置が恣意的すぎて蓋然性が感じられず,ひたすら「あらそうですか」と思うしかない図ができあがる。

その怪しげな図をもとに著者は地域主義且つ健康指向をフード左翼,その逆のグローバリズム且つジャンクフードをフード右翼と位置づける。かくしてめでたくもオーガニックカフェでランチをとるアナタはフード左翼に,ラーメン二郎に列を作り注文の仕方から食い方にまで講釈をたれるキミはフード右翼ということになる。え,オレはどっちも食うけどどうしたらいいんだって? 知らないよ,オレは逆にどっちも食わないし。

ライフスタイルとしての有機農法などが,実は都市の富裕層によって支えられている現実のルポルタージュや,増え続ける世界人口に食を行き渡らせることのできる可能性があるのは自然農法などではなくて遺伝子組み換え作物ではないのか,という指摘など,ところどころ読むに値する論考はある。の・だ・が,途中から,おそらく最初は「ツカミ」っぽい意味でぶちあげたであろう題名の「左翼」「右翼」の概念に著者自身が振り回されて議論の着地点を見失った感じ。さらっと読めてそれなりに面白いが,残念ながら浅い。


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2016年11月09日

ブックレビュー 「ヒエログリフ解読史」 ジョン・レイ著

ヒエログリフ解読史
ヒエログリフ,古代エジプトの神聖文字とは20年来のつきあい…というのも変だが,1980年代の終わりごろに作った Macintosh用英和辞典ソフト(威張っておくと一応世界初だった)の名前をロゼッタストーンから取って「rSTONE」としたときに,アイコンのデザインの参考にするために「ヒエログリフ入門」という本を買った。

この本はその名の通り「キミもヒエログリフを読み書きできるようになろう!」という本なので(書くのはかなりメンドーだけどね),ロゼッタストーンの発見を端緒とするこの古代文字解読の歴史については概略しか触れていなかった。

あれから月満ち星は流れて手に取ったこの本。題名通りこっちはヒエログリフの読み方・書き方にはほとんど触れず,その「解読の歴史」をたどったものである。

でもまず最初に,これまで見たことのなかったロゼッタストーン…あ,これがどんなものかは知ってますよね? 1799年にエジプトに進攻したナポレオンの軍によって発見されたプトレマイオス朝時代の石碑の一部で,ヒエログリフ(神聖文字),デモティック(エジプトの民衆が使っていた古代文字),ギリシャ文字の3種類の文字で同じ内容が刻まれてたことから,謎の文字と言われたヒエログリフ解読の大きな手がかりになった。現在大英博物館所蔵。解説終わり。

このロゼッタストーンの復元図,つまり「今のように割れてしまう前のこの石碑はこんなカタチをしていて,今残ってるのはこの部分である」とゆーことがわかる図が掲載されていて結構感激。つか,写真とかで見る限り現在残っている3種類の文字の分量バランスはヒエログリフが極端に少ないのでその辺はいったいどーなっておるのか,ちうのが我が積年の疑問であったの。あーすっきりした。

石はその後前述のごとくワーテルローでナポレオンを破った英国のものとなり,イギリス人トーマス・ヤングによる研究を経て有名なジャン=フランソワ・シャンポリオンがその完全解読に成功する。このヤングとシャンポリオンの間の確執とか,その後継者たちに関する逸話なども興味深い。巻末には「解読されたロゼッタストーン碑文の全文」も収録されていて親切(つか,中身はたいして面白くないんだけどこれが載ってないロゼッタストーン本には,なんとなくハグラかされたような気がしちゃうことも事実なんだよね)。

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posted by hiro fujimoto at 08:26| Comment(0) |