2016年11月25日

映画レビュー 「予告犯」 中村義洋監督

予告犯
インターネットで始まった生中継。場所はどこぞのネットカフェか。映っているのは、Tシャツを身につけ,新聞紙で作った覆面を被った男。自らをシンブンシと名付けた彼は、ネットで炎上中の人物を取り上げその行状をあげつらったのち、こう言い放つ。

「明日の予告を教えてやる。こんなヤツには制裁だ。」

店の設備でゴキブリを揚げたバイトはホントにゴキブリのフライをほおばらされ、レイプ被害者を自業自得と言い放った大学生は尻にバイブを突っ込まれた。そして、食中毒を詫びる記者会見で傲慢な態度を取った食品企業会社の工場は放火された。しかもそれらはすべて「予言の実行」としてネットで生中継されたのだった。

捜査に乗り出した警視庁サイバー犯罪対策課のリーダー、吉野絵里香(戸田恵梨香)はシンブンシが同じTシャツ,覆面をした複数の男たちであり、彼らがいつも「中継」を行うのに使用しているネット・カフェが同じチェーン店であることまで突き止めたが…。

事件の進行・展開に並行し、シンブンシ・グループの来歴が語られる。

リーダー格の「ゲイツ」こと奥田孔明(生田斗真)は元派遣のプログラマー、正社員になれるはずの3年目を目前に、雇い止め目的のイジメに遭って身体を壊し失職。2年間の闘病ののち職探しの末に行き着いた産廃処理場のタコ部屋で仲間達に出会う。

その仲間達、元バンドマンのカンサイ(鈴木亮平)、ニートのノビタ(濱田岳)、小心者のメタボ(荒川良々)らも皆、ゲイツと似たような経緯で社会から落ちこぼれた者達。一緒に働いていた日系フィリピン人・ヒョロ(福山康平)の病死に対する雇い主の態度に逆上し、彼を撲殺して処理場を焼き払った4人はある「狙い」を秘めてこの計画を始めたのだった。

原作が漫画だけあって(読んでないけど)、人物造形が戯画的過ぎるきらいがあるが(でもそう描かないとこの話、進まないしなぁ),それを含む細かな瑕疵をものともせずにグイグイ物語を牽引していく演出はさすが中村義洋。でも最後のアレはちょっと、強引すぎかな?

この映画を観てきた数日後の2015年6月19日、派遣の不安定な雇用状態を固定化すると批判の多かった派遣法改正案が衆院を通過した。この映画自体が「明日の予言」にならないといいがなぁ。

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2016年11月20日

映画レビュー 「スター・トレック BEYOND」 ジャスティン・リン監督

スター・トレック BEYOND
5年間の深宇宙探査計画も半ばを過ぎ,異星人達との交渉に明け暮れながらジェームズ・T・カーク(クリス・パイン)は倦んでいた。任務に対して強烈な使命感を持っていた父親と自分を引き比べ,船を降りようかと考えることもしばしば。

そんな折り,ある星系で争いの種となっている「パワーストーン」という物体を巡る和平交渉に臨み失敗したエンタープライズは物資補給のため最寄りのステーション,ヨークタウンに寄港する。

数日の休暇をとることになったクルー達。スポック(ザカリー・クイント)は自らの分身であるスポック大使(レナード・ニモイ)の訃報を受け取り,スールー(ジョン・チョー)はこのステーションに居住している家族と団欒。

カークは上司に艦長の座をスポックに譲って下船したいという意思を伝えようとするが,そこに所属不明の宇宙船から救難信号が。群体のような動きをする謎の宇宙船群を追い払い,救い出した異星人のクルーはここからそう遠くない星雲の中で襲われ仲間が拉致されたと言う。

現在このステーションにいる船でその救出任務に堪えられるのはエンタープライズだけ。ヨークタウン司令官のフィネガン(グレッグ・グランバーグ)はクルーを招集し,救出作戦に向かわせるのだが…。

話がコツブ。リブート第1作はオリジナルシリーズとのツナギ,第2作はオリジナルシリーズで最も人気の高かったカタキ役カーンを起用して盛り上がったが,完全なオリジナル脚本となった本作は…あのSFオタク,自らもスコット役で出演しているサイモン・ペッグが脚本に関わってるのにこの程度かよ,つう出来だな。

思えば「ネクストジェネレーション」の映画シリーズも同じ展開だった。第1作「ジェネレーションズ」はオリジナルシリーズの役者たちを引っ張り出したツナギのエピソードでそれなりの成功を収め,第2作「ファースト・コンタクト」はTVシリーズ最大の敵ボーグを出して大成功(いやこの映画はホンマに傑作でした)。

だけどTVシリーズにルーツのない第3作「叛乱」がイマイチで人気が落ち,第4作「ネメシス」でTVシリーズからの裏テーマである「人造人間データは人間になれるか」の答えを出しての終焉となった。やっぱりスタートレックの世界の場合,観客に馴染のない新展開は鬼門なんだよなぁ。

聞けばクリス・パインとザカリー・クイントは既に第4作への出演契約にサインをしたらしい。願わくばレナード・ニモイが監督して人気を盛り返した「故郷への長い旅」のような第4作を作ってシリーズとしての命脈を保って欲しいもんである。


「スター・トレック BEYOND」公式サイト


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2016年11月03日

映画レビュー 「小さな命が呼ぶとき」 トム・ヴォーン監督

小さな命が呼ぶとき
脚本を読んだハリソン・フォードがハリソフォドした…ぢゃ筒井センセイの「発明後のパタン」だ,自ら製作総指揮を買って出たというので話題になった作品。

オレゴン州ポートランド,製薬会社に勤めるビジネスマンのジョン・クラウリー(ブレンダン・フレイザー)は焦っていた。ポンペという難病に冒された8歳になる長女メーガン(メレディス・ドローガー)とその弟で次男のパトリック(ディエゴ・ベラスケス)が,共に余命が1年に満たないと診断されたのだ。

4万人に1人の割合で発症するといわれるこの病気は先天的代謝異常の一つで,体内に蓄えられたグリコーゲンをうまく分解できないため筋肉がエネルギーを得られず歩くこともできず,やがて内臓が肥大して死に至るという。

悩んだジョンは,この病気の治療法について研究しているネブラスカ大学のロバート・ストーンヒル博士(ハリソン・フォード)を訪ねる。自分の研究に対し,大学がフットボール・チームのコーチの年収以下の研究費しか出さないことに憤っていた博士は,ビジネスマンとしてのジョンの経歴に着目,2人でポンペ病治療薬を開発するバイオ・ベンチャー企業を立ち上げないかと提案する…。

安定した暮らしを投げ出すことになるが,これ以外に2人の子供を喪わずに済む可能性はない。周囲から狂人扱いされながらジョンは唯一の希望に向かって邁進していく。設立資金を求めてヴェンチャーキャピルと渡り合い,開発のスピードを求めて大手製薬会社への身売りを画策する。そして遂に新薬は治験段階に至るのだが…。

まるでオトギ話みたいだが,この話は実話なんだそうで,実際にこのジョン・クラウリー氏は映画公開時 Amicus Therapeutics というバイオ企業のCEO,病気の2人(彼らが開発したのはポンペ病を完治するクスリではなく,ポンペ病で死なずに済むクスリ)を含む3人のお子さんも健在ということだった。

映画の106分という尺の中ではどう脚本を書いても「トントン拍子」の感をぬぐえないが,単なるお涙頂戴の感動モノではなく,子供の命を救いたいという親の情熱の前に立ちはだかる資本の論理,ビジネスの法則といった障害物の姿をありのままに描いているトコロに価値があろう。

将来に渡ってそれを負担する親の一人でありながら,製薬会社の面々にこのクスリが患者を持つ家族にとってどれだけ無くてはならないものか,よってどんだけの収益が見込めるか,を説くシーンのブレンダン・フレイザーはオレの中でようやく「悪いことしましョ!」の彼とは違う顔を持った。もう二度と「川平慈英にちょっと似てるあの俳優」とか呼びません。皆さんも呼ばないように。

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posted by hiro fujimoto at 08:39| Comment(0) | 映画