2017年03月05日

映画レビュー 「ラ・ラ・ランド」 デミアン・チャゼル監督

ラ・ラ・ランド
なんだかかなり毀誉褒貶あるみたいだが,オレはこの映画ひょっとすると「ミュージカル映画」というものの新しい地平を開くかも知れないと思ったのである。説明が必要か。

ご存知のようにミュージカル映画というものは名作「雨に唄えば」など一部の例外を除き,ブロードウェイなどでミュージカルとして演じられ成功したものを『映画化』したものである。古くは「オズの魔法使い」から「サウンド・オブ・ミュージック」,「マイ・フェア・レディ」。近くは「オペラ座の怪人」,「レ・ミゼラブル」みんなそうだ。

なかには「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」みたいに,まず普通の映画として作られ(1961年),それをもとにしてハワード・アッシュマンとアラン・メンケンが1982年にミュージカルに仕立てて上演。これが当たったので1986年に「ミュージカル映画」としてリメークされたなんてのも。ついでに言うと1961年の映画には若い頃のジャック・ニコルソンが出てる。面白いよ。

で,元が舞台のものはもちろん,最初から映画であり映画界の話である「雨に唄えば」でさえ(未見のヒトのためにちょっとだけ明かすとこれは「ミュージカル映画を作る」というミュージカル映画なのね),その出自である「舞台としてのミュージカル」の頚木から自由でなかった,と思う。

もちろん「映画なんだから」と頑張った作品もあった。「マイ・フェア・レディ」の競馬場とか「オペラ座の怪人」の墓地とか。舞台の制約を離れ映画ならではの空間的広がりを演出しようという試みは,あった。けど,オレの記憶ではたしか,そこでは芝居は行われても歌と踊りは始まらなかった,と思うのだ。

この映画は違う。最初から「ミュージカルではなくミュージカル映画」として企画され,脚本が練られ,絵コンテが起こされ(もちろんコンピュータ・グラフィックスを駆使しての)撮影が行われているため,空間に,そして時間にも制約がないのだ。

冒頭のハイウェイでのモブ・ダンスで「ひょっとしてそういう映画なのか?」と思い,続くパーティのシーン(ダンサーが次々とプールに飛び込む。しかも水中にカメラが)で「たぶんそうだ」と。そして主役の男女がこともあろうにミュージカル映画のなかでミュージカルでもない映画(「理由なき反攻」)を観に行ってしまうに及んで確信に変わった。

オハナシは別に目新しくない男女の出会いと別れなのでここでアラスジを追う必要もあるまい。そのオハナシが古くさいとか,ダンスの出来がどうだとか,主人公の音楽のセンスが云々とか,そういうのは瑣末なことだ。ひょっとしたらデミアン・チャゼルのこれは「ミュージカル映画の再発明」なのかも知れないんだから。

で,これにブロードウェイはどう逆襲するんだろ。楽しみだなぁ。


「ラ・ラ・ランド」公式サイト


※ 上のように書いてましたがあのハイウェイのシーンを含めほとんどCGはないんだそうで仰天しながら訂正させていただきます。
posted by hiro fujimoto at 13:46| Comment(0) | 映画

2017年02月26日

映画レビュー 「王様のためのホログラム」 トム・ティクヴァ監督

王様のためのホログラム
「アラブの王様に3Dホログラムシステムを売りに行く話」というだと思って観に行ったのだが違うのである。いや確かに主人公は,「アラブの王様に3Dホログラムシステムを売りに行く」のだけど,この映画はそういう映画ではないのだ。なんてったら通じるかなぁこの微妙なズレ。

主人公のアラン・クレイ(トム・ハンクス),かつては米国有数の自転車メーカーの重役だった。が,株主からのコスト削減要求に堪え切れず,生産拠点を中国に移したのが大失敗。中国の提携先はアランの会社の技術やノウハウを見事にパクって廉価な競合製品を発売。

アランはクビになり,妻にも見限られて離婚。どうにかツテを頼ってボストンの新興IT企業に営業担当重役として潜り込み,与えられた最初の仕事がサウジアラビアの王様に自社開発の3Dホログラム会議システムを売り込むこと。彼に同情的な娘キット(トレイシー・フェアウエイ)とのビデオチャットを楽しみに,勇躍砂漠の国に降り立ったアラン。

ところが初日,現場へ向かう送迎バスに乗り遅れ,呼んだタクシーの運転手ユセフ(アレクサンダー・ブラック)は妙に馴れ馴れしい。やっと着いてみれば先乗りスタッフ達が作業しているのはオフィスとは名ばかりのテント。WiFiが繋がらない,ランチを食べるところもない…。

なんとかしようと王室側の担当者を訪ねるが受付の女性は「今日は不在,明日は来ます」とだけ(それが毎日!)。担当者にさえ逢えないのに,売り込み相手の国王に謁見できるのはいつのことか。混乱とプレッシャーの中,遂にアランは倒れてしまい,病院へ。そこで出会ったのがこの国では希有と言っていい女性医師ザーラ(サリタ・チョウドリー)だった…。

ビジネス・アドベンチャーかと思えばさにあらず(自分で書いてて思うが「ビジネス・アドベンチャー」ってつくづく怪しい言葉だな),カルチャーギャップが主題なのかと思えばそれもエッセンスのひとつに過ぎない。最後まで観るとこれつまり「文化の違うを超えて普遍的な愛と救済の物語」なんである。



「王様のためのホログラム」 オフィシャルサイト
posted by hiro fujimoto at 09:35| Comment(0) | 映画

2017年01月29日

映画レビュー 「スノーデン」 オリバー・ストーン監督

snowden

2年ちょっと前,グレン・グリーンウォルドが発表した「暴露:スノーデンが私に託したファイル」という本を読んだ時,その内容に慄然とはしたものの,それを暴露した本人,エドワード・スノーデンという30歳そこそこの元CIA職員には少なからずうさん臭いものを感じないではなかった。あの本でのスノーデンはなんつかキレイゴトばかりで生身の人間って気がしないんだよね。

オリバー・ストーンのこの映画は真逆。彼が暴露した内容(まぁこの映画を観に来るようなヒトはとっくにそれ知ってるだろってのもあるけど)よりも,同世代の平均的な若者よりもかなり保守的かつ愛国的だったマジメな青年がどういう経緯であの行動に駆り立てられて行ったのか,を丹念に追ってる。オリバー・ストーンってこういうの撮らせるとうまいんだよね。

2001年9月の同時多発テロに衝撃を受け,国の役に立ちたいと軍に志願入隊したスノーデン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。特殊部隊の一員として厳しい訓練に耐えていたが,2004年足に大怪我を負って除隊を余儀なくされる。失意の数ヶ月を過ごしたのちCIAの採用試験に合格した彼は「ザ・ヒル」と呼ばれる訓練センターでサイバー・セキュリティのノウハウをたたき込まれる。ここで指導教官オブライアン(リス・エヴァンス)にエンジニアとしての才能を見いだされた彼はCIAの情報システムに関する改善案をまとめるなど充実した日々を送る。

私生活でもネットで知りあったリンゼイ・ミルズ(シャイリーン・ウッドリー)という女性と交際するようになった彼だったが,2007年ジュネーヴにあるアメリカ国連代表部に派遣されたことからCIAの暗部に触れることになる。そこではCIAとNSAが協力し,諜報活動のターゲットはもちろん,一般市民のメールやチャット,SNSでの発言に至るまですべてを追跡,そうして得た情報を使ってテロとは無関係な人物をスパイとして使えるように工作していたのだ。愛する国のこの行為に納得できないスノーデンは帰国とともにCIAを辞職する。

しかし自身の才能が彼をそのシステムに縛りつける。民間のコンピュータ会社に職を得た彼だったがその勤務先は日本・横田のNSA関連施設,続いてハワイにあるNSAの地下施設で個人情報監視用の機密システムを管理することになる。奇しくもそのシステムはCIA時代に彼が開発したソフトウェアをベースにしており,国家による個人情報への違法なアクセスに関与していることに対する嫌悪に嘖まれる。そしてついにある日,彼は自分の知るすべてを明るみに出す決心を…。

厳重に管理されたハワイの基地内からどうやって機密情報を持ち出すか,このシーンをクライマックスに据えた演出はみごと。重厚な社会派ドラマであると同時に,はらはらどきどきする上質なサスペンスに仕上がっている。いや実際そのやりくちは見事ですよ。

もちろんスノーデンの行為(そしてアメリカ当局の行為)についての意見はいろいろだろう。映画のなかでスノーデンの上司が言うように「大抵の人間は自由より安全を望んでいる」のかも知れない。でもこれだけは間違いない。どんな意見のヒトであろうと,この映画観て帰ったらとりあえずパソコンについてるカメラのレンズをナニかで塞ぐよ。


「スノーデン」公式サイト

posted by hiro fujimoto at 19:55| Comment(0) | 映画