2017年02月26日

映画レビュー 「王様のためのホログラム」 トム・ティクヴァ監督

王様のためのホログラム
「アラブの王様に3Dホログラムシステムを売りに行く話」というだと思って観に行ったのだが違うのである。いや確かに主人公は,「アラブの王様に3Dホログラムシステムを売りに行く」のだけど,この映画はそういう映画ではないのだ。なんてったら通じるかなぁこの微妙なズレ。

主人公のアラン・クレイ(トム・ハンクス),かつては米国有数の自転車メーカーの重役だった。が,株主からのコスト削減要求に堪え切れず,生産拠点を中国に移したのが大失敗。中国の提携先はアランの会社の技術やノウハウを見事にパクって廉価な競合製品を発売。

アランはクビになり,妻にも見限られて離婚。どうにかツテを頼ってボストンの新興IT企業に営業担当重役として潜り込み,与えられた最初の仕事がサウジアラビアの王様に自社開発の3Dホログラム会議システムを売り込むこと。彼に同情的な娘キット(トレイシー・フェアウエイ)とのビデオチャットを楽しみに,勇躍砂漠の国に降り立ったアラン。

ところが初日,現場へ向かう送迎バスに乗り遅れ,呼んだタクシーの運転手ユセフ(アレクサンダー・ブラック)は妙に馴れ馴れしい。やっと着いてみれば先乗りスタッフ達が作業しているのはオフィスとは名ばかりのテント。WiFiが繋がらない,ランチを食べるところもない…。

なんとかしようと王室側の担当者を訪ねるが受付の女性は「今日は不在,明日は来ます」とだけ(それが毎日!)。担当者にさえ逢えないのに,売り込み相手の国王に謁見できるのはいつのことか。混乱とプレッシャーの中,遂にアランは倒れてしまい,病院へ。そこで出会ったのがこの国では希有と言っていい女性医師ザーラ(サリタ・チョウドリー)だった…。

ビジネス・アドベンチャーかと思えばさにあらず(自分で書いてて思うが「ビジネス・アドベンチャー」ってつくづく怪しい言葉だな),カルチャーギャップが主題なのかと思えばそれもエッセンスのひとつに過ぎない。最後まで観るとこれつまり「文化の違うを超えて普遍的な愛と救済の物語」なんである。



「王様のためのホログラム」 オフィシャルサイト
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2017年01月29日

映画レビュー 「スノーデン」 オリバー・ストーン監督

snowden

2年ちょっと前,グレン・グリーンウォルドが発表した「暴露:スノーデンが私に託したファイル」という本を読んだ時,その内容に慄然とはしたものの,それを暴露した本人,エドワード・スノーデンという30歳そこそこの元CIA職員には少なからずうさん臭いものを感じないではなかった。あの本でのスノーデンはなんつかキレイゴトばかりで生身の人間って気がしないんだよね。

オリバー・ストーンのこの映画は真逆。彼が暴露した内容(まぁこの映画を観に来るようなヒトはとっくにそれ知ってるだろってのもあるけど)よりも,同世代の平均的な若者よりもかなり保守的かつ愛国的だったマジメな青年がどういう経緯であの行動に駆り立てられて行ったのか,を丹念に追ってる。オリバー・ストーンってこういうの撮らせるとうまいんだよね。

2001年9月の同時多発テロに衝撃を受け,国の役に立ちたいと軍に志願入隊したスノーデン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。特殊部隊の一員として厳しい訓練に耐えていたが,2004年足に大怪我を負って除隊を余儀なくされる。失意の数ヶ月を過ごしたのちCIAの採用試験に合格した彼は「ザ・ヒル」と呼ばれる訓練センターでサイバー・セキュリティのノウハウをたたき込まれる。ここで指導教官オブライアン(リス・エヴァンス)にエンジニアとしての才能を見いだされた彼はCIAの情報システムに関する改善案をまとめるなど充実した日々を送る。

私生活でもネットで知りあったリンゼイ・ミルズ(シャイリーン・ウッドリー)という女性と交際するようになった彼だったが,2007年ジュネーヴにあるアメリカ国連代表部に派遣されたことからCIAの暗部に触れることになる。そこではCIAとNSAが協力し,諜報活動のターゲットはもちろん,一般市民のメールやチャット,SNSでの発言に至るまですべてを追跡,そうして得た情報を使ってテロとは無関係な人物をスパイとして使えるように工作していたのだ。愛する国のこの行為に納得できないスノーデンは帰国とともにCIAを辞職する。

しかし自身の才能が彼をそのシステムに縛りつける。民間のコンピュータ会社に職を得た彼だったがその勤務先は日本・横田のNSA関連施設,続いてハワイにあるNSAの地下施設で個人情報監視用の機密システムを管理することになる。奇しくもそのシステムはCIA時代に彼が開発したソフトウェアをベースにしており,国家による個人情報への違法なアクセスに関与していることに対する嫌悪に嘖まれる。そしてついにある日,彼は自分の知るすべてを明るみに出す決心を…。

厳重に管理されたハワイの基地内からどうやって機密情報を持ち出すか,このシーンをクライマックスに据えた演出はみごと。重厚な社会派ドラマであると同時に,はらはらどきどきする上質なサスペンスに仕上がっている。いや実際そのやりくちは見事ですよ。

もちろんスノーデンの行為(そしてアメリカ当局の行為)についての意見はいろいろだろう。映画のなかでスノーデンの上司が言うように「大抵の人間は自由より安全を望んでいる」のかも知れない。でもこれだけは間違いない。どんな意見のヒトであろうと,この映画観て帰ったらとりあえずパソコンについてるカメラのレンズをナニかで塞ぐよ。


「スノーデン」公式サイト

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2017年01月22日

映画レビュー 「本能寺ホテル」 鈴木雅之監督

本能寺ホテル
予告編を観て楽しみにしていたのだが,公開前に「プリンセス・トヨトミ」の作者・万城目学のTwitterでの発言を見ちゃったからなぁ。あ,知らないヒトのために付記するとこの映画のウリのひとつが「『プリンセス・トヨトミ』のメインキャスト&スタッフが再結集…」なのね,で…あとは長くなるので「万城目学 本能寺ホテル」で自分でググッて欲しい。

一応,アラスジをなぞっておくとー。

勤務先の会社が倒産,再就職もままならず途方に暮れているところ,交際半年の吉岡(平山浩行)から結婚を申し込まれ,なりゆきで承諾してしまった倉本繭子(綾瀬はるか)。吉岡の両親の金婚式パーティに招かれて京都へ着くがホテルのフロントで「お客様の予約は来月」と言われてしまう。大きなトランクをひきずって京都の町を彷徨ったあげく,たどり着いたのはちょっとレトロな雰囲気の本能寺ホテル。

どこか怪しげな風情の支配人(風間杜夫)に迎えられ部屋のキーを渡されて乗ったエレベータ。ところが扉が開いたところは天正10年6月1日,織田信長(堤真一)が逗留中の本能寺の伽藍の一角。小姓・森蘭丸(濱田岳)に発見され,事情もわからぬまま信長と京商人の謁見の場に。そこで無謀にも信長の暴君ぶりを咎めてしまい捕えられて閉じこめられるが気がつけばそこはあのエレベータの中。

支配人に問い質すも彼は彼女になにが起きたのかさっぱり理解できぬ様子。実際二人でエレベータに乗ってみるとそれは正しく客室階に到着する。釈然としないまま吉岡の父(近藤正臣)に逢って挨拶を済ませ,友人達とともに洛中を散策してホテルに戻った繭子,ふたたび一人でエレベータに乗るとまたそこは本能寺。そこでなぜか信長と打ち解け,天下を平和にしたいというその理想に感じ入るのだが…。

これ,ダメダメぢゃん。

まず主人公・繭子のキャラ設定がぐちゃぐちゃ。結婚の件でわかるように意志薄弱な成り行き任せな性格なのかと思えばいきなり信長の前で正義感を発揮するし,社会科の教員免許を持ってるというわりにその夜(天正10年6月2日未明)があの運命の日であることになかなか気づかない。信長もあとで繭子に見せる理想の高さと最初に登場したときに商人の持つ茶器を召し上げようとする強欲ぶりが乖離してる。

キャラだけぢゃない。吉岡の親父が1年前に亡くなった妻の遺言に従って金婚式のパーティをやることとか,その席で現在の高級料亭を閉めもう一度学生相手の安い食堂をやると発表することとか,いやべつに悪い話ぢゃないが映画のストーリーにどう貢献してるのかさっぱりわからない。言い換えれば,繭子が京都に来てこのホテルに泊まる口実がなんかあれば,婚約者もその友人も父親も要らないやんけこれ。

まだまだいろいろあるのだが,めんどくさいのでこの辺にしとく。とにかくハナシがバラバラなんだよね。

そこで思い出すのが冒頭の万城目発言である。デビュー作の「鴨川ホルモー」から「プリンセス・トヨトミ」,「鹿男あおによし」,「偉大なるしゅららぼん」。映像化された万城目作品に共通の要素はいささか過剰ではないかとさえ思われる主人公たちの「キャラ」である。「鴨川ホルモー」の主人公・安倍の持つ美女の鼻へのこだわりや「プリンセス・トヨトミ」の松平元の検査好き,「鹿男あおによし」の小川(小説では「おれ」だけど)の神経衰弱など,その設定自体が物語を駆動する役割を果たす。

しかるにこの映画の繭子にはそれがない。どころか,誰もが知ってるはずの信長のそれさえ希薄だ(定説を裏返して「信長いい人」をやるのならもっと首尾一貫してやるべきだ)。ホントのところは解らぬが,万城目学が書いたらこんなハナシになったはずがないことだけは確実だろう。なにが悪くて全ボツになったか知らぬがオレは万城目シナリオの方が観たかったなぁ…おっとっと,彼が言ってる映画はこれのことだと決めつけて書いてますがそれはワタシの思い込みであってなんの確証もないことだけ最後にお断りしておきますおきますからおきますってば。


「本能寺ホテル」公式サイト
posted by hiro fujimoto at 20:46| Comment(0) | 映画