2017年05月16日

映画レビュー 「ノー・エスケープ 自由への国境」 ホナス・キュアロン監督

NO_ESCAPE
アメリカ=メキシコ国境。まだ「壁」はないが,荒れ果てた砂漠地帯に有刺鉄線の「境界」が続く。かつてアメリカで働き妻子と暮らしていたが不運にも強制送還されてしまったモイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)は幼い息子と再び暮らすため,越境ガイドのロボ(マルコ・ペレス)に金を払い再びアメリカを目指す。

が,一行を乗せたトラックは砂漠で立ち往生。しかたなく徒歩でアメリカを目ざし歩き出すが,国境の有刺鉄線をくぐり抜けてほどなく,先導役のロボがもんどり打って倒れる。どこからか飛来した銃弾が彼の頭を撃ち抜いたのだ。身を隠すものとてない荒野(原題はまんま「Desierto」)で,不法移民達はに次々と倒されていく。

脚の遅い仲間を気づかったために遅れまだ平原につづく丘の上にいたモイセスは,連れの男を銃弾で失ったアデラ(アロンドラ・ヒダルゴ)という女と二人と身を隠すが,銃弾の主サム(ジェフリー・ディーン・モーガン)は,よく訓練された猟犬トラッカーと共にピックアップトラックに乗って執拗に彼らを追ってくる…。

ストーリーの骨子はスピルバーグの「激突!」に似ている。襲撃者の武器がライフルなので顔を見せないわけにいかず,顔が見えると必然的にその人物の複雑な「感情」が表出する分「恐怖」が減じてしまうのだが,そこをうまく犬で補っている。いや実際,この犬の「演技」は特筆モノ,飼い主に忠実であるという犬の「美徳」が飼い主の「悪意」を増幅する怖さは半端ではない。その分犬好きにはちとツラかったりするんだが。

監督のホナス・キュアロンはあの「ゼロ・グラビティ」(この邦題にはちょっともやもやするがしょうがない)や「天国の口,終りの楽園」の監督,アルフォンソ・キュアロンの息子。そう聞くと映画のテイストには通暁するものがあるな。

最後にひとつだけ。実はこの映画,本国メキシコでの公開は昨年(2016年)4月。つまりドナルド・トランプが大統領選挙に勝つどころか,まだ共和党の候補者にも指名されていないころ。製作は2015年なのでこの脚本はあの「メキシコ国境に壁を作る」というトランプの公約にはなんの関係もなく書かれたもの。なんだけど,たぶん日本への配給はトランプの「おかげ」だよな感謝はしないけど。

「ノー・エスケープ 自由への国境」公式サイト


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2017年05月07日

映画レビュー 「バーニング・オーシャン」 ピーター・バーグ監督

バーニング・オーシャン
大好物の海洋パニックもの! と思って観に行ったら実話をもとにした災害モノで,当然ながら逃げ惑う美女のドレスが乱れたり尊大な大金持ちの本性が露になったり希代の詐欺師が改心したり意外な人物が皆の命を救うような活躍を見せたり…ということはないのだった。が,それはそれ,見応えは充分。

元になった実話を押さえておく。2010年4月,ルイジアナ州ベニス沖約80キロの海上から1,522mの海底にパイプを降ろして油田掘削作業を行っていた施設「ディープウォーター・ホライズン」(この施設名がそのまま映画の題名になっている。邦題もこのままで良かったんぢゃないかと思うけどな)で,技術的不手際から天然ガスが逆流,爆発,折れた掘削パイプから大量の原油がメキシコ湾に流出した。

映画はこの施設を稼働するトランスオーシャン社のエンジニア,マイク・ウィリアムズ(マーク・ウォールバーグ)の自宅での目覚めから始まる。妻フェリシア(ケイト・ハドソン),幼い娘シドニー(ステラ・アレン)との他愛もない会話のあと,マイクは3週間にわたる(はずだった)の海上勤務のため家をあとにする。

彼と同じように施設主任ジミー・ハレル(カート・ラッセル),ドリリング・オペレイターのアンドレア・フレイタス(ジーナ・ロドリゲス)らスタッフがベニスの港に集結。ヘリコプターに乗ってディープウォーター・ホライズンに到着する。この時点で掘削計画は予定から一月以上遅れており,親会社BPの幹部ヴィドリン(ジョン・マルコヴィッチ)は安全確保のためのセメント・テストを省略することを決定していた。

これを知ったジミーは当然ヴィドリンに詰め寄るが,巨大資本の論理を振りかざす彼は意に介さない。テスト要員が既に本土に帰されてしまったこともあり,不承不承ヴィドリンの提案する計画変更を了承する。が,その晩,ジミーが食堂で無事故記録の更新を祝う記念品を受け取っている最中,海中深く異変が始まっていた…。

その場にいるのが全員施設の関係者ということもあっていわゆるグランドホテル形式のパニック映画みたいな「人間ドラマ」の要素はないが,とにかくその事故,爆発,火災の凄まじさを再現した映像は圧巻。この事故で帰らぬ人となった11人の名前と写真が流れるエンドロールを観ながら,いつか日本でもこんなふうに福島第一原子力発電所の事故に関する映画が作られることがあるのだろうか,とぼんやり思った。


「バーニング・オーシャン」公式サイト
posted by hiro fujimoto at 11:37| Comment(0) | 映画

2017年04月08日

映画レビュー 「ムーンライト」 バリー・ジェンキンス監督

MOONLIGHT

あの「ラ・ラ・ランド」を抑えて(しかも例のハプニング付きで)第89回アカデミー作品賞を獲得した映画である。うーん,こういう映画が「ラ・ラ・ランド」を凌駕したのか。

舞台はフロリダ州マイアミ。ヤクの売人フアン(マハーシャラ・アリ)が縄張りを廻る。扱っているのはヤクだが,部下の売人に家族の様子を聞いて気にかけたりして慕われている。通りの向うを一団の少年たちが駆け抜けて行く。先頭を行く小柄な子供(アレックス・ヒバート)を他の数人が追いかけている。「オカマ!」という罵声が聞こえる。

フアンがヤクの隠し場所である廃屋に行くと,そこにさっきの子供が一人で隠れている。名前を聞いても住所を聞いてもかたくなに口を閉ざす子供をフアンは自宅に連れ帰り,妻テレサ(ジャネール・モネイ)の手料理を食べさせる。ようやく話し始める少年の名前はシャロン,だが学校では「リトル」と呼ばれている。「『オカマ』って何?」。シャロンにそう訊ねられたフアンは「それはゲイを不快にさせる言葉だ」と答える。「たとえゲイでもそう呼ばせるな」と。

やがてフアンはシャロンの母親ポーラ(ナオミ・ハリス)が自分の手下の客であり,ヤクに溺れてほとんど母親らしいことをしていないことを知る。ポーラにヤクを辞めさせることができない彼はテレサと二人シャロンの親代わりになろうとする。海に連れていって泳ぎを教え,故郷キューバの話をする。黒人の子供は月明かりの下で青く光る。自分の道を他人に決めさせるな。

暗転。

時は流れシャロン(アシュトン・サンダース)は高校生になっている。背丈は伸びたのでもう「リトル」ではないが,やせっぽっちと内向的な性格が災いしていまだに苛めの標的だ。ポーラはヤクから抜け出せておらず,家にいたたまれないとき彼は未亡人となっているテレサのところへ行く。テレサと,子供の頃から一人だけ彼を苛めなかった親友ケヴィン(ジャハール・ジェローム)だけが彼のシェルターだった。

テレサがくれたなけなしの生活費をポーラに奪われ行き場を無くした夜,フアンと泳いだ海にやってきたシャロンは彼を見かけてやってきたケヴィンに初めて自信の悲しみと辛さを打ち明ける。が,心を通わせあった数日後,不良達の圧力に屈したケヴィンは彼らにけしかけられてシャロンを殴ってしまう。心身ともに傷ついたシャロンは事件の首謀者の少年を椅子でたたきのめして逮捕される。

暗転。

ジョージア州アトランタ。すっかり大人になったシャロン(トレバンテ・ローズ)はここでブラックと呼ばれるマッチョな身体の売人になっている。母親のポーラは再三戻ってこいと電話を寄越すがそのたびに生返事を繰り返す。そんな彼にある日,あのケヴィン(アンドレ・ホランド)から電話が。ケヴィンは言う。「あの時のことを謝りたい…」。これを受けてシャロンはマイアミ行きを決意する…。

「行間」の映画である。「余韻」の映画と言ってもいい。余計な説明をしない。いや,ひょっとすると「必要だ」と思うヒトも多かろう説明をしない。そういう意味ではとても非ハリウッド的な作り,全然似ていないのに小津安二郎作品みたいな印象が残る。キャスト全員が黒人も映画としてこの映画がアカデミーの作品賞を獲得したことは,なんというか「オバマ時代」の最後の栄光かも知れないな。


「ムーンライト」公式サイト
posted by hiro fujimoto at 10:20| Comment(0) | 映画