2016年05月09日

ブックレビュー 「謎のチェス指し人形『ターク』」 トム・スタンデージ著

TheTurk
そう,タークである。懐かしいでしょ? 80年代,オレと同じように「AI(Artificail Inteligence)の狂騒」に巻き込まれ,人工知能だのエキスパートシステムだの第五世代コンピュータだのが引き起こした虚実ないまぜの現実歪曲フィールドに短期間でも身を置かざるを得なかったニンゲンなら誰でも知ってるあのターク。オカルト人造人間の伝説を繙けば,ユダヤの秘術ゴーレムとフランケンシュタインのモンスターの間に位置するあのタークである。

…てな具合に,古手のコンピュータ関係者各位に最近ではめったに味わえない種類の知的優越感を提供しておいて,そーでないヒトのためにちと説明しよう。書名にあるとおり「ターク」とは18世紀にハンガリーの役人,ケンペレンというヒトが作った「チェスを指す自動人形」である。

当時のハンガリーは,オーストリア=ハンガリー帝国として有名な女帝マリア・テレジアの治世。このマリア・テレジアというヒトは当時の女性には珍しく非常に合理的なオバさんで,城にやってきてショーをしたフランス人奇術師のトリックを見破らせようと物理学だの機械工学に詳しいと評判のケンペレンを呼んだ。

このときケンペレンが観せられたショーというのがどういうものだったかはよく分かってない。が,その仕組みをことごとく見破った彼は女帝に,自分ならもっと驚くような効果を発揮し完璧にヒトを騙せるような機械を作れる,と宣言した。そして半年後,彼が女帝の前に差し出したのが「チェスを指す自動人形」。人形がトルコ人の格好をしていた(チェスはアジアから欧州に伝わったので,トルコ人にはチェスが強いというイメージがあったらしい)ため,ほどなく「ターク」と呼ばれ始める。

チェスの試合を始める前,ケンペレンは人形が組み込まれている台の扉や人形の背中を開け,中が歯車などの機械で埋まっていることを確認させた。そのあとゼンマイが巻かれ,チェスの試合が始まるのだがこれがまた強いのだ。城内の腕自慢をあらかた片づけたあと,伝統的なチェスのパズル「ナイトのツアー」も解いて見せた…。やがてタークは評判となりケンペレンと共にパリ,ロンドンなどを歴訪する。パリではナポレオンを驚嘆させ,ロンドンでも一大ブームを巻き起こした。

これがホントならタークは自分で考えたうえ駒も動かせるという鉄腕アトム級のスーパー機械である。が,もちろんそんなこたぁ不可能,21世紀の今に至るもまだアトムは生まれていない。最初にケンペレン自身が「ヒトを騙せる機械」と言ってたように,この人形は奇術であって科学ではない,ましてや魔法なんぞではあり得ない。しかしそのインチキのタネはケンペレンの死後もよく守られ,1840年の春に壊れて売りに出されたこの人形を入手したアメリカ人医師ミッチェルが復元するまで明らかにされなかった,だけでなく,各方面に様々な波及効果をもたらした。

まずはそのインチキを暴こうとしたヒトビトの中から,エドガー・アラン・ポーという人物が出現する。のちに論理をもとに事実を推理するというスタイルで一世を風靡した彼を有名にした最初の仕事は,この「ターク」の仕組みを論理的に解明するという記事だったのだ(残念ながら間違っていたが)。続いて,確かにこれはインチキに決まっているが,ではインチキせずにホントにチェスをする機械をつくることはできないのかと考える人々が出現。アラン・チューリングは机上のマシンのためにチェスをするプログラムを書き,それをつかって友人と対局,こてんぱんに負けたという。

月満ち星は流れ1997年,上にも書いた通りディープ・ブルーはカスパロフを破った。取った駒を再利用できるからチェスより遥かに複雑と言われた将棋でも,今年1月米長邦雄永世棋聖がボンクラーズに敗北。そして遂に囲碁でも今年,グーグルの子会社が開発したアルファ碁というプログラムが世界で五指に入ると言われる韓国の李セドル九段を打ち負かした。

冒頭に述べた「AIの狂騒」の経験者として,オレは鉄腕アトム的な「意思を持つ機械」の出現には懐疑的(いや,否定的でもいいんだけどさ)である。が,このテのゲームの分野では人間がコンピュータに凌駕される日は遠くないだろうと思ってた…思ってたよりずっと早かっけど。とにかくそうした研究のきっかけがこのタークだとしたら,こんな絵に描いたような「嘘から出たまこと」はないよね。

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posted by hiro fujimoto at 18:45| Comment(0) |

映画レビュー 「インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実」 チャールズ・ファーガソン監督

InsideJob
第83回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門受賞作。

2008年,リーマン・ショックを引き金にして世界中がウォール街発の金融危機・経済不況の嵐に巻き込まれた。全世界で実に200兆ドルもの金が消え,そしてその影響は今もそこかしこに残っている。

…とかいうと,あれがまるで津波のように誰彼なくみんなを襲った自然災害だったかのように聞こえる。実際この映画のなかには,あの金融危機がその言葉で表現されるシーンもあったりするんだが,しかしあれは断じて自然災害ではない。

そもそも金融の世界に自然災害なんて起きるわけないやろ? 200兆がどっかへ消えた? ケムリとちゃうんや消えるわけないやろ? ここに損したヤツがおればどっかに儲けた奴がおるいうのが経済の常識やないか。

わからへん? ほんぢゃあれが何故起きて,誰がどう儲けたか,おいちゃんが分かり易〜う教えてやるさかい飴買うてそこに並び。席は譲り合って仲良う座り。ええか,では始まり始まり,というのが実はこの映画なのである。いや字幕はちゃんと標準語ですけど。

話はアイスランド経済の破綻から始まる。憶えてますか? このクニ最大手のカウブシング銀行が,2007年8月にオランダの投資銀行を約30億ユーロで買収したのが発端だ。人口約32万人,漁業と観光が主要産業であるこの島国のどこにそんな金があったのか。

その金はあのサブプラムローンを経由してアメリカからやってきてたんですね。アメリカの貧乏人の住宅ローンがどこをどう通ってアイスランドの銀行の資金に化けるのか,ハーバード大学中退,マット・ディモンのナレーションがそこんところを小学生でも理解できるように説明してくれる。

仕組みが解るだけぢゃないよ,子供の目にもこれがいつまでも通用する話ぢゃないことも解っちゃう。ぢゃなんでアメリカ政府の偉いヒト達にはそれが解らなかったのか? 解らないことにしておけば自分の財布が見る間に膨らんでいったからなのだ。指摘する学者はいなかったのかって? ハーバードやコロンビアの経済学者たちはみんなこのテの金融屋に顧問として雇われてたのだ。

サブプライムローンを証券化したCDO(債務担保証券)を安全確実ですと偽って売り,それが破綻したときも自分は儲かる(損をしないぢゃない,儲かるのだ)ようにCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という仕組みをでっちあげる。紙くずのような債券を「AAA」と評価してた格付け会社は「格付けはあくまで『意見』にすぎません」とシラを切り,業界出身の政治家が「ぢゃしょうがないよね」と言って勘弁しちゃう。

…マイケル・ムーアの「キャピタリズム マネーは踊る」が「たけしのTVタックル」だとすれば,この映画は同じ題材を扱った「NHKスペシャル」だ。よくこんなもん撮ったもんで,アカデミー受賞は当然,真実を描いたドキュメンタリーだと思う。ただその真実には,この映画がアカデミー獲るほど評価された後もこういうペテンを可能にしたアメリカの金融政策がちっとも変わらないってコトも含まれるんだが。

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posted by hiro fujimoto at 07:33| Comment(0) | 映画

2016年05月08日のつぶやき




























posted by hiro fujimoto at 00:01| Comment(0) | 日記