2016年05月07日

ブックレビュー 「自爆する若者たち-人口学が警告する驚愕の未来」 グナル・ハインゾーン著

自爆する若者たち
ずいぶん前のことで出典も何も忘れてしまったが,江戸末期に勃興,跋扈したいわゆる侠客組織の中枢にいたのは,主に農家の次男坊,三男坊であったというのを読んだことがある。

江戸時代の農民というと武士の権力に搾取される農民というイメージが強いが,社会不安を醸し出すほどの飢饉はそうたびたびあったわけではなく,新田開発などによる食料の増産もあって人口も増えた。一部には田畑を分与するいわゆる「たわけ」という相続もあったろうが,江戸末期には受け継ぐべき土地家屋もなく,さしあたって食うには困らぬものの将来に何の展望もない若者が農村に飽和状態になっており,彼らのポテンシャルが飢饉を契機に博徒というかたちで暴発したと言えなくもない,らしいのね。

本書は,こうしたユース・バルジ,すなわち戦闘能力が高く社会にトコロをもたない青年層の増大こそがテロリズム,暴力的行動の真の原因である,という視点から,大航海時代のイベリア半島(スペイン・ポルトガル),それに続いて世界の覇権を握ったオランダ,イギリス,アメリカの歴史を見直し,太平洋戦争直前の日本の分析を経て,戦後の南米,現在のイスラーム圏までを俯瞰,暴動と人口の相関に潜む「隠れた法則」をあぶり出して見せる,なんと言いますか「目ウロコ本」であります。

ただ,ちと読んでて気になったことがあるんだよね。いや,理論と実証の説得力には脱帽するし,現在も一人の母親が生涯に7人の子を産む(確率からいうとその半分が男の子である)アフガニスタンが今後も世界紛争の火種になるだろうからタイヘンだというのも分かる。なにしろそういうトコロから出てくる兵士は母親にとって「大勢の子供の1人」であり,それを迎え撃つのは「大事な1人息子」なんだから,迎え撃つ側にはどうしても厭戦気分が蔓延する。

だけどほんぢゃどうすればいいのかっちゅうところになって,…もちろんはっきりそう書くのは避けているけれども,「平和的解決が可能だと思ってるヤツはおめでたい」,つまりは「連中をぶっ殺すしかない」という風になっていくのはどんなもんか。著者のハインゾーン氏はドイツ人なんだが,中東問題(イスラエルとアラブの問題)に対してドイツ人であるがゆえの微妙なバイアスみたいなものがそこに垣間見えるような気がする。

ついでに言うと(これはオレが東洋人だから感じるのかもしれぬが)ヨーロッパ人であるゆえのある種の「既得権は既得。先祖が暴力でぶんどったものかもしれないけど,いまこの時代にそれを暴力で取り返すってのは許されることではない」てな身勝手さも。決してオレはテロを肯定するモノではないけれど,お前らそういう態度ぢゃ結局いつまで経っても殺し合いが続くだけやないの,と思いますよ。

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posted by hiro fujimoto at 20:58| Comment(0) |

映画レビュー 「スペイン一家監禁事件」 ミゲル・アンヘラ・ヴィヴァス監督

スペイン一家監禁事件
2010年のオースチン・ファンタスティック・フェスで,最優秀ホラー映画賞と最優秀ホラー監督賞をダブル受賞したって…正直この映画フェスのことをロクに知らないんだけど,とにかくコワクてスゴイ映画らしいというので期待して観に行った。もうね,この映画冒頭のツカミからイカレてます。

スクリーン一杯にスーパーのレジ袋みたいのがでてきて何かと思ったらこれが息を始める。オトコがひとり,後ろ手に縛られた上ドタマにレジ袋を被せられてたわけ。息苦しさから意識を取り戻した男はなにも見えないまま公園とおぼしき木立のなかを彷徨い,道路に出てクルマに撥ねられる。

飛び出してきた運転手に袋を取ってもらうと番号を言って電話を掛けてくれるようにせがむ。「パパだ,鍵を取られた。いいか誰が来ても家に入れちゃいけない」ところが返事は「もう遅いよ,パパ」と,それに続いて銃声。

場面は一転,中堅ビジネスマンのハイメ(フェルナンド・カヨ)一家の郊外の住宅地への引っ越し当日。新居での第一夜を家族揃って過ごしたい妻のマルタ(アナ・ヴァジュネール)は,恋人と出掛ける約束しているという娘イサ(マニュエラ・ヴェレ)を叱るが,娘に甘いハイメはこれを取りなそうと……。

と,突然そこに窓を破って3人の覆面男が。銃の前に為す術もなく制圧された一家を尻目に家中から金目のものをかき集めた一味は3人に銀行のキャッシュカードと暗証番号を強要,妻と娘を人質にしリーダー格の男とハイメはクルマでATMのある街中へ。そして家には約束の場所に来ないイサを迎えに恋人のセザル(ゾエル・ヤーネス)が訪ねて来てしまう……。

資料によれば,欧州ではこのテの自宅への押し入り強盗事件が年間300万件(10秒に1件だ,キミ)も発生してるんだそうで,ウソから出たマコトというか逆説的というか,「普通の映画だったらこう使われるよな」って伏線が,逆方向にねじくれて行く展開のリアリティは一級品。ホラー映画,スプラッター嫌いだけでなく,基本気の弱いヒトは避けといた方が無難な作品であります。

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posted by hiro fujimoto at 10:15| Comment(0) | 日記

ブックレビュー 「異常な契約-TPPの仮面を剥ぐ」 ジェーン・ケルシー著

Anti-TPP
本書は2010年11月(奇しくもこれは日本でTPPへの参加検討が閣議決定された時期),既にTPP交渉に加わっているニュージーランドで出版されたTPP分析本。簡単に言えば「TPPに参加するとどういうことが起こるのか,分野別にそれぞれの専門家がちょっと細かく予想しみました」という本である。

日本でもよく取り沙汰される国内アグリビジネスへの影響や遺伝子組換食品などの安全問題,あるいは知的所有権がらみの医薬品問題はもちろん,日本では言われない先住民族の権利問題など,もちろん議論のベースにはニュージーランドの立場・国益がありまんま我が国に当てはまるものではないけれど,いろいろ示唆に富む考察満載。

分析されてる数多の論点を逐一取り上げてこれはこーだそっちはそーだあっちはあーだウォーラスはポールだと知ったか振りする才能も知識も面の皮もないので,読んでる最中「うーん,なるほど」と付箋をつけたところをいくつかご紹介する。

まず1つ目は2004年に交渉が行われた豪米FTA,オーストラリアが対米貿易において障壁と指摘された関税のほとんどを撤廃したにも関わらず,政府が国民にバラ色の試算を示したアメリカへの砂糖の輸出に関してなんらの前進も観られなかったこの貿易協定が,実はブッシュが始めた対イラク戦争においてオーストラリアが「アメリカの同盟国」として手を挙げたことの正当性を担保するための政治的パーフォーマンスとして機能したという指摘。

次にTPPが,現在各国の当然の権利と考えられている動植物検疫や食品安全基準を協定に反する貿易障壁として提訴対象に出来るようにする条項を含んでいるということ。つまりこれは,ある国の国会議員どころか,有権者ですらないヒトや企業が,その国の法律を不当として変えさせる…少なくとも変えるための話し合いを強制できるということになるわけ。

医薬品に関してはもっと深刻な事態が予想されている。アメリカの医薬品業界は医薬品に関する特許保護機関の延長を主張しており,とりもなおさずこれはジェネリック薬品の市場参入阻止を意味している。一部の貧困国のみならず,日本のように医療費負担の増大が問題になっている先進国にとってもジェネリック薬品の存在は重要だが,アメリカは自国の製薬会社の儲けのために世界中を貧乏な病人を道に捨てて省みない自分とこのクニのようにしたいのである。

ほかにもあるが,池野めだかに習って今日はこのくらいにしといたろ。最後にひとつだけ,この問題全体を俯瞰するに参考になるだろうくだりを。

まだ冒頭に近い「オーストラリアにおけるTPPを巡る政治状況」という章に,TPPを推進する,した方がいい,するべきだとする考え方,イデオロギーの中核をなすのは「政府の活動は制限されるべきであり,最終的には市場の力がそれに取って代わるべきだという主張」であるというオーストラリア,ラッド前首相の2009年の発言が引用されている。

この発言の内容自体はかのエマニュアル・トッドが「デモクラシー以後」で指摘した問題を非常に簡潔に要約したに過ぎないが,重要…というか笑ってしまうくらい皮肉なのは,これが一度は一国の政権を担った,政府を主導した人物の言葉であるということである。

こんだけ言っても解んないヒトがいるかも知れないのでお母さんみたいにドロドロに噛み砕いて言ってあげると「TPPを推進するということはこの世界に政府なんてものは要らないと言ってるのと同じだ」ということなのだ。今日本で「何がTPPなんでも推進するんだばーろーばーろー」と息巻いてる政治家たちは実は自分の足を食ってるタコなのである。まぁそんなバカな政治家は別にいなくなってくれてちっとも構わないんだけどさ。

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posted by hiro fujimoto at 00:38| Comment(0) |

2016年05月06日のつぶやき














posted by hiro fujimoto at 00:01| Comment(0) | 日記