2016年05月25日

ブックレビュー 「スコット・ラファロ その生涯と音楽」 ヘレン・ラファロ・フェルナンデス著

スコット・ラファロ
スコット・ラファロ…少しでもジャズをかじったことのあるヒトであればこの名前に聞き覚えがあるだろう。いや,聞き覚えはなくても一度くらいは,ビル・エヴァンス・トリオ1961年録音の名盤「ワルツ・フォー・デビイ」を聴いたことがあると思う。

あの,ブラシでハイハットを撫でる音から始まるアルバムでダブルベースを弾いているのが,そのレコーディングのわずか2週間後,交通事故で逝ってしまったスコット・ラファロである。まだ25歳だった。

著者名をご確認いただきたい。著者はスコットの2歳下の妹(旧姓のラファロをミドルネームにしている)。兄の死後,友人だった多くのミュージシャンや音楽関係者からその伝記を書くよう勧められた彼女が40数年かけてまとめたスコット・ラファロの生涯・集大成が本書なのである。正直,身内の綴ったものゆえの「書かれているのはいいことづくめ」感は否めない。

たとえば本書には「スコットはけして麻薬をやらなかったし,ビル(エヴァンスのこと)のヘロイン中毒のことでは『理解できない』と言っていた」とあるが,Wikipedia(日本語版)には出典不明ながら「性格的にはやや粗暴で、麻薬常習者でもあった」と書かれてたり…ね。

読者のヒトリとしては,自分が生まれた年に死んだミュージシャンがいまさら麻薬中毒だっかどうかなんてどうでもいいことだし,当然だけどそれによって彼の音楽の素晴らしさになんかキズがつくもんでもないんだけどね。身内にしてみればそれが大問題だってのもわかるけど。

それよりは彼の音楽家としての軌跡…最初はベースではなくサックスから始めた,だからサックスでできることをベースでやってみるという発想が生まれた,とか,ミュージシャン仲間からの彼への評価,彼らが指摘するスコットの演奏の革新性(これについては楽譜付きでとっても詳しい「論文」が収録されている。当然,それについてオレは評価も要約も解説もできない)なんかはとっても面白く読める。あと「訳注」がすごく適切であるなど翻訳はとってもいい。

思い起こせばエヴァンス・トリオの「ワルツ・フォー・デビイ」を初めて聴いたのは高校の文化祭で喫茶店(の模擬店)をやったとき,仲間のヤブツカ君が家から持ち込んだ高価なオーディオを守るためと称して学校に泊まり込んだ明け方だった。つうことはオレがジャズを聴くようになったきっかけの1枚つうことになる。

スタン・ゲッツやトニー・スコット(映画監督ぢゃないほう)との演奏など,未聴のものが結構あることも知った(詳しいディスコグラフィがついてる)。是非見つけて聴いてみたいと思いましたね。

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2016年05月24日のつぶやき
















posted by hiro fujimoto at 00:01| Comment(0) | 日記

2016年05月24日

映画レビュー 「闇の列車,光の旅」 キャリー・ジョージ・フクナガ監督

闇の列車,光の旅
2009年サンダンス映画祭監督賞受賞作。メキシコ最南部,チアバス州タバチュラで暮らす青年カスペル(エドガー・フロレス)は中南米最大のギャング組織マラ・サルバトゥルチャ13のこの地域でのナンバー3,目尻に「人を殺した証」涙のカタチの入れ墨をしている。

ある日,彼のギャングとしての暮らしを知らない恋人マルタ(ディアナ・ガルシア)が浮気を疑ってギャングの溜まり場に現れ,ボスのリルマゴ(テノック・ウエルタ・メヒア)に襲われ殺されてしまう。マルタとの逢瀬のために組織の仕事をおろそかにしていたカスペルは黙ってこれに耐えるしかなかった。

翌日,リルマゴはカステルとまだ10代になったばかりの新人スマイリー(クリスティアン・フェレール)を連れ,北ヘ向かう貨物列車の屋根に乗っている移民たちから金を強奪しに行く。だがリルマゴがホンジュラス人の娘サイラ(パウリーナ・ガイタン)に目をつけ銃で脅して乱暴しようとした瞬間頭の中でなにかが弾け,カステルは手にした鉈をリルマゴの首に振り降ろしてしまうのだった。

カステルの裏切りはスマイリーによってナンバー2であるソル(ルイス・フェルナンド・ペナ)の知るところとなり,組織を上げての追跡が始まる。一方,彼に救われたサイラは眠る父親と叔父を置き去りに,深夜列車を降りるカステルについていく…。

メキシコ,移民と聞けば我々がすぐ想起するのはアメリカに密入国するメキシコ移民のことである。が,そのメキシコが逆側の国境では,内戦続きのグアテマラやその向こうので政情不安な最貧国ホンジュラスから流入する人々を厳しく取り締まっている。

貧しいメキシコ南部では屋根にいる移民たちに食い物を投げてくれるヒトもいるが,アメリカに近くそれなりの経済発展を遂げている北部では投げつけられるのが石になったり,カステルを殺すための銃を渡されたスマイリーがそれを誇らしげに幼い子供たちにみせびらかすなど,そうした,グローバル化とスーパーキャピタリズムによって寄せられた「しわ」のてっぺんに振り落とされまいとしがみついている人々の暮らしのディティールを切り取る手腕は見事。

これはホント「出来るだけ多くのヒトに観ていただきたい」と思う映画であります。

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posted by hiro fujimoto at 09:02| Comment(0) | 映画